ありす「雨は嫌い」

 

 

ザー…

ありす「…どしゃ降りですね」

モバP「あー、天気予報の言うとおりになっちゃったな。今日一日これらしいぞ」パソコンカタカタ

モバP「おかげで、予定にあった野外ロケも中止だぁ、ハハッ」

ありす「笑い事じゃないですよ、もうっ」

ありす「私、今日の仕事、楽しみにしてたんですからねっ」

モバP「あー確か、文香ちゃんと一緒に仕事だったっけ?あの娘、所属は他部署だけど、お前よく懐いてるもんなぁ」

ありす「…別にそんなことないと思います」テレ

モバP(バレバレだっつの)

ありす「…あと」

モバP「ん?」

ありす「"橘"です。ちゃんと名前で呼んでください」

モバP「ほぇ?…あ、あー。悪い悪い。きちんと名前で呼んでやらねぇと機嫌損ねちゃうからなぁ、"ありす"は」

ありす「…もうっ」プイッ

 

 

 

モバP「…そういや、思い出したんだけどさぁ」

ありす「なんですか?」

モバP「なんか、前にもこんなことなかったっけか?大事な予定が雨で流れてしまった、みたいなこと」

ありす「…えぇ、ありましたよ。あれは…」

モバP「あっ、思い出したわ!ありすがここに所属してから、確か二、三ヶ月くらいしてからだっけか」

ありす「…むっ」

モバP「事務所のみんなで、親睦会をやろうって話になったんだよな。俺は仕事があって行けなかったんだけど」

モバP「あん時のありすはなぁ」

ありす「…っ!ちょっと」

モバP「ずっと前からそわそわしてたもんなぁ。すっげぇ楽しみにしてたってのが、目に見えてよく伝わってきてたからなぁ」

ありす「やめてくださいっ、恥ずかしい…

                                                              あと、橘ですっ」

モバP「それだけに、あの時の顔は忘れられないなぁ。急な大雨で中止、ってなった時のありすの顔。ありゃ可哀想だった」

ありす「…他人事みたいに言って……」プクー

モバP「ハハッ、そうふくれるなよ。聞いた話じゃ、別の日に集まれるやつらでもっかい開こう、ってなったんだろ?」

ありす「…そうですけど、あの日じゃなかったら文香さんは来れなかったんです。あの日じゃなきゃ…」

モバP「…ほんとに文香ちゃんが大好きなんだな、ありすは。ちょっと妬けるなぁ」

ありす「…んなっ!?」

ありす「なっ、何を言ってるんですかっ、この人はっ!?」ワタワタ

モバP「ハハッ、そう変に捉えるなよ。そのまんまの意味さ」

ありす「…まったく……」ブツブツ

 

 

 

ありす「…それに」

モバP「んっ?」

ありす「もうひとつ、ありますよ。雨の話」

モバP「…んん?あったっけか、そんなの」

ありす「……この人は…」

モバP「えっ、なんか言ったか?」

ありす「なんでもないです。それより、本当に覚えてないんですか?」

モバP「生憎な」

ありす「…ほら、つい一週間くらい前の話ですよ。収録終わりに、二人で打ち上げにでも行こうかってPさんが言い出して」

モバP「…あー、あれか。いきなり雷雨だってんだから、驚いたよなぁ」

ありす「…予約してたお店も、キャンセルで」

モバP「あれっ、そうだったかな?あーいや、そうだったなぁ」

モバP「いやー、あれは参ったなぁ。たまにはいつものファミレスじゃなくて、ちょっと贅沢してみようかと思ったらアレだもんなぁ」

ありす「…」

モバP「悪天候により本日営業中止、なんて馬鹿げた話もあったもんだぁ。後から知ったんだが、あの店の店主、あの大雨で事故ったらしいんだぜ。ハハッ、お気の毒になぁ」

モバP「そんでもって、事務所に一直線ときたもんだ。…いや、ありすはそのまま家に送り届けたんだっけか?あんまし覚えてねぇなぁ」

ありす「…Pさん」

モバP「実はな、食事の後は夜景でも見に行こうかと思ってたんだ。綺麗なとこ知ってんだぜ?ま、仕方ないことだしもういいんだけど…」

ありす「Pさんっ!!」

モバP「うぉっ」

ありす「なんで…なんでそんなにヘラヘラしてるんですかっ!」

ありす「私…本当に、本当に楽しみだったんですよっ!!」

モバP「あ…ありす?」

ありす「Pさんと一緒にいられるって、そう思ってっ」

ありす「…一人で舞い上がって」

ありす「Pさんは、なんとも思ってなかったんですかっ!?」

モバP「…ありす……」

 

ありす「…私は」

ありす「初めここに来たときは、怖くて、不安で、自分に素直になれなくて」

ありす「周りの人にも強く当たってしまっていて」

ありす「でも、Pさんはこんな私に優しくしてくれて…」グスッ

ありす「…私、本当に嬉しかったんです」

 

ザー…

モバP「…」

 

ありす「…Pさんは、なかなか皆と馴染めなかった私を見かねて」

ありす「色々と世話を焼いてくださいました」

ありす「Pさんのおかげで、今こうして楽しくアイドルができているんですよ」

モバP「ありす…」

ありす「だから…あの時も、あの時だって」

ありす「Pさんがいないのは寂しくて」

ありす「Pさんが一緒なのは嬉しくて」

ありす「…でも、Pさんはそうじゃないんですよね?」

ありす「私みたいな子供、どうでもいいんですよね」

ありす「…だって」

ありす「忘れてしまう程度の思い出なんて…」グズッ

 

 

モバP「…」スタスタ

 

ギュッ

 

ありす「あっ…」

 

 

モバP「…ごめんな、ありす」

モバP「ありすがそんなに想っていてくれてたなんて」

モバP「俺、こういうの鈍いからさ、全然気づけなかったよ」

ありす「…知ってます、そんなこと。離してください。それに、橘です」グスッ

モバP「…どうしたら許してくれる?今なら、何だって言うこと聞いちゃうかもよ?」

ありす「…頭を、撫でてください」

モバP「ん」ナデナデ

ありす「…それに」

ありす「Pさんは悪くありません。全部、この雨が悪いんです」

 

ありす「雨は…嫌いです」

 

モバP「…そっか」

ありす「そうです、全部雨のせいです。雨なんかなくなっちゃえばいいんですっ」

モバP「ハハッ、そう言うなよ。 お天道さまだって、日照り続きじゃ喉が渇いちゃうからって、仕方なく降らしてるもんなんだぜ?」

モバP「それに、今回は単に俺のミスだ。担当アイドルの本心も見抜けないようじゃ、プロデューサー失格だな」ハハハッ

ありす「でも、雨さえ降らなかったら…」

モバP「…外、見てみな」

ありす「…えっ?あっ…」

 

 

ありす「…虹だ……」

 

 

ありす「…」

モバP「や、しかし見事に上がったなぁ」

モバP「綺麗なもんだろ?だから、俺は結構好きだぜ、雨」

モバP「みんなの嫌な思いとか、憂鬱な気持ちも全部受け止めて、それでも降り続ける」

モバP「そして最後には、虹を架けてくれる」

ありす「…でも、いいことなんて、何も」

モバP「…俺はありすの本音を、雨のおかげで聞くことができた。そして、俺はこう言うだろう」

モバP「『明日、食事にでも行きませんか』って」

ありす「…っ!それって」

モバP「間違ってもデートじゃないぞ?でもまぁ」

モバP「夜景のキレイなレストランぐらいなら、連れてってやるよ」

ありす「…Pさんっ」

モバP「…いやー、我ながらクサいこと言っちゃったかな?は、恥ずかしいなー…っと」

ありす「ありがとうございますっ」ペコッ

モバP「っえ?いやいやいや、そんな頭下げるようなことじゃ」

ありす「私、嬉しいですっ。楽しみにしてますからねっ」

モバP「…お、おうよっ。期待してろよっ」

モバP(素直になったなぁ…ホント)

 

ありす「…ふふっ♪」

 

 

 

雨は嫌い。

嬉しいことも楽しいことも、全部流れちゃうから。

…でも、Pさんがそばにいてくれるなら

 

 

ありす「いつでも虹は心の中に、ですねっ」ボソッ

文香「……?」

 

 

 

おしまい